10 Sun's Height (Day 1635)



床暖房が効きすぎているせいか?と思った喉の渇きと寝苦しさに目を覚ました俺様は、ただならぬ事態に気が付いた。



せっかく着込んだ寝間着はいつの間にか脱ぎ捨ててるし、俺様自慢のレッドクラシックタビーの毛皮が真っ黒でゴワゴワの毛に変わっている。 見下ろすと足もなんだかゴツい。 腰が伸ばせないので視界が低いし、それに視野が妙に狭い。



風邪でもひいたかな?熱でもあるのかな? えーと、ステータスチェック。




ギャー。ナンジャコリャー。






見事なまでに赤点のオンパレードである。 ちょっ何コレっ・・だっ誰かーーー。



あわてふためいて部屋の外へ飛び出ると、他の部屋にいる人、まだ階下にいる人の気配がはっきりと伝わってきた。 熱い血が流れる、その皮膚の感触まで、まるで触っているかのように鋭敏に感じ取れる。 何だこの感覚。 それに何だこの喉の渇き。




いやいやいやいや、それどころじゃないし、と階段を駆け下りた俺様が姿を現すなり、階下は大騒ぎとなった。



獣が入り込んでる!




ち、違うって、ホラ、俺様だって・・・と口を開いたのだが、そこから出てきたのは弁解の言葉ではなくグルグルという獣のうなり声。 ガーーーン。




Kill the beast!
殺せ!
Kill the beast!
殺せ!




ギャーーーーーーース!!



ブンと振られた剣が頭上をギリギリでかすめて空を切る。 ニギャーーーッ!! こ、ここはとりあえず逃げるしか!!!




いきなり現れた獣が俺様だと知らずに攻撃してくるThirskのみんなに反撃するわけにもいかず、俺様は転がるように湖への坂道を降りた。 なるたけ早くThirskから離れたい。 それにどうしても水が飲みたい。 喉が焼け付くように傷む。






普段なら水に濡れるのがかなり嫌いな俺様だが、今回ばかりは湖の存在に感謝した。 とにかく水、水〜っ、と体まで水に浸かりながら、水面に口を付けて・・・・



わぁっ。


獣どころではない。 長い鼻の人狼が、湖水と月明かりの作った鏡から俺様を見つめ返している。 ナンジャコリャーーー。













どどどどどどうしよう。 と水を飲みながら水鏡を見つめると、黒いゴワゴワした毛の生えた顔と、お月様が映っている。 月・・・・・・・・月・・・・・・・夜。 しまった、人狼病か!今日って三日目の夜だったのか!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キレイサッパリ忘れてたよ(大泣)




ゴブゴブと水をいくら飲んでも喉の渇きは治まらず、それでもいつまでたっても氷水に浸かっていたらさすがに人狼でも風邪のヒトツもひきそうなので、ブルブルと水を振り飛ばしながら湖岸に上がる。 頭を傾けて耳に入った水を出していると、Udyrfrykteの巣がぽっかりと口を開けているのが目に入った。 うぅ、背に腹は代えられない。 こんな姿ではThirskにも戻れないし、Fortに向かってもアナザー大パニック発生だろう。 とりあえずどこかに落ち着いて考えをまとめなくては。







でろーーーーん。



うへぇ・・・・・・。


幸いなことに、氷に覆われた洞窟の中ではUdyrfrykteもまだ腐り始めておらず、虚ろな目がこっちを見ている(ような気がする)他は、なんとか当座の隠れ家になりそうだった。 一番奥の、Udyrfrykteが枯れ草を集めてこしらえていた巣に、よっこらしょと腰を据える。



デカゴリラの万年床だったのに、不思議と嫌な臭いはしない。


それどころか何だかイイニオイがする。


旨そうな匂いがどこからともなくしてくる。



かぶりつけば、喉の渇きも癒されそうなほどイイニオイだ。






ってああああああああああー、コレ人肉の匂いじゃんかよ!!!




俺様の鼻を素敵にくすぐっていたのは、Udyrfrykteが食った人間の残り香だった。 ダメだダメだ。 人間なんか食ったらダメだー。 俺様は元々獣人だからかろうじて共食いにはならないだろうけど・・・・・・・やっぱダメーーーーーーーー。







生き血への渇望が体力を削る。
早く吸血しなくては。


異常な食欲、というか、人間を探して、その喉にガップリと食らいつきたいという恐ろしいまでに強い欲望と、それやったらマジにアウトっしょー、という理性の間で悶々としているウチに、まるで脱水症状でも起こしているかのようにどんどん体力が減っていった。



生き血への渇望が体力を削る。
早く吸血しなくては。



俺様の新しい「本能」が、血をよこせと腹の中で喚いている。 まるで飢え死にせんばかりの勢いだ。 



生き血への渇望が体力を削る。
早く吸血しなくては。



外に向かって走り出さないように、無我夢中で人を襲ってしまわないように、必死で堪えている。 じっと座っているだけのことに、ものすごく体力と気力を使う。




生き血への渇望が体力を削る。
早く吸血しなくては。




もう・・・・・無理・・・・かな・・・と思い始めた時、フッと腐臭が鼻をかすめた。 人間の血の嫌な臭い。 死体の放つ特有の死臭。 あぁ、感覚が、元に戻った。



洞窟の外で、長かった夜が明けたのだと、それでわかった。




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